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はつ恋 / 村山由佳

書評 2018年12月 時事通信社配信

はつ恋
はつ恋
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村山 由佳
ポプラ社
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 もうすぐ五十歳になる小説家のハナは、南房総の一軒家に猫のユズと暮らしている。執筆活動の傍ら、隣のおじいさん、亀吉さんの手を借りつつ庭の手入れをする毎日だ。子供の頃に住んでいた大阪にいる年下の幼なじみ、大工のトキヲと遠距離恋愛中である。二人とも結婚には二度失敗した。それぞれに年老いた親を持ち、トキヲには前妻との娘がいる。トキヲは白い車でやって来る。電話は毎日だが、それぞれ自営の二人は、月に数日、会うのがやっとだ。
 そんなハナの一年が季節の移り変わりとともに描かれる。そこには、二つの時間が混在している。
 ひとつは、ハナが家や庭の手入れをしている、みずみずしい今の時間。都会から離れたのどかな南房総での四季の花々や旬の食材を愛でる暮らし。もう一つは、そうしながらも心の中でトキヲを待ち焦がれ、常に思い出されるトキヲと過ごした時間。大らかな性質ながら、細やかな気遣いもできるトキヲとの親密なやりとり。
 そして、距離を超えてトキオが会いに来る時、二つの時間が一つになる。
 今はお互いの暮らしを尊重し、離れたままで暮らしているが、この相手を失いたくないと思う気持ちは、これまで経験した恋や、相互依存に近い結婚生活とも違う。
 人生を折り返す年齢だ。一生のうちでもっとも多くのものを抱え込む時期だろう。これ以降も増え続けるが、それ以上に失われるものが多くなるだろうから。
「今はまだ、かかえている執着すらも、急いで手放す必要を感じない。(略)むしろ今は、生の喜びにしっかりとしがみついていたい」
 求めるものを諦める理由を探す必要はない。すぐには解決しない問題もある。だから、欲望も困難もそのまま持ち続ければいい。トキヲと会えない時もハナの人生なのだ。
 将来を設計するでも、過去を見送るでもない、それらに挟まれた今を惜しみ、正直に丁寧に日々を送る。そうでなくて、いつ恋をしたと言えるだろう。

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