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静かに、ねぇ、静かに / 本谷有希子

書評 2018年8月 時事通信社配信

静かに、ねぇ、静かに
本谷 有希子
講談社
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「静かに、ねぇ、静かに」。頭文字を並べるとSNSとなるようにつけられたタイトルだ。われわれの生活スタイルに変革をもたらしたインターネット・サービスは、今や思考の方法や現実の見え方、さらに人格そのものまでも変えようとしている。ここに収められた三編は、自ら作り出したものに翻弄される人間の寓話とも読める。恐ろしいのは、SNSなのか、作者の眼差しか、サービスを利用する人間なのか。
 マレーシアへの旅行者三人組を描いた「本当の旅」。いまどきの思想を貫こうとする彼らにとって、旅もインスタ映えする投稿の手段でしかない。
「旅って結局さあ、」ずっちんがつぶやく。
「している時そのものの中には、ないのかもしれないよね」
 そう、本当のことは全てSNSの中にある。そこで楽しそうにしていることが何よりも大切なのだ。彼らが見ないようにしている現実と、乖離するばかりの危うい言動は、どこに行き着くのか。
 キャンピングカーで一泊旅行をする二組の夫婦、「奥さん、犬は大丈夫だよね?」。インターネットショッピング依存症のために携帯電話を取り上げられた主婦にとって、目に映る全てはネットショッピングのための言い訳でしかない。
 就活中ぐうたらカップル「でぶのハッピーバースデー」。夫は、「でぶ」と呼んでいる妻の容姿が崩れていく様を、自分たちが「最初から壊れてたものを与えられてる」印として、動画配信で全世界の人たちに見てもらおうと言い出す。
 ネット上の世界と、手に触れることのできるこの世界とが、むいたミカンの皮を裏返しにしたように、ひっくり返る。原因と結果がひっくり返り、人間の行為と目的が逆転する。
 簡潔であるほどに悪意に満ちた筆致は、登場人物たちを容赦なく叩き落とす。けれども、大切なもの全てがSNSに置き換えられた後で、微かに匂うのは、愛の痕跡か、あるいは予兆なのか。
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